明け方の若者たち(21年公開DVD)

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就職氷河期と呼ばれた2012年に大手印刷会社の内定を得た大学生の僕(北村匠)は、級友の石田(楽駆)が集めた就職戦線「勝ち組」飲み会で、彼女(黒島結菜)と知り合う。二人は飲み会を抜け出して、近くのクジラ公園で会う。彼女は2歳年上の大学院生だという。卒業後はアパレル企業で働きたいと。この物語は「僕」と「彼女」のその後を、2013年の夏まで滑らかに描いていく。就職したものの、企画部希望とは違い総務部で地味な仕事に耐えなければならない僕。希望どおりにアパレル業界に入った彼女。二人は、とても仲の良い恋人どうし。一人暮らしを始めた僕の部屋で愛し合い、一緒に風呂に入って歯を磨く。最後の夏、二人は僕の車でドライブに出かける。海辺の瀟洒なホテルに泊まった二人は、修学旅行に来たようにはしゃぎ、愛し合い、朝を迎える。だが、突然、僕の前から彼女は消えてしまう。電話をしても返事はない。彼女を失った苦しさから会社を休んだ僕を、親友の尚人(井上裕貴)が訪ねる。その場面で、観客は初めて僕と彼女の本当の関係を知る、という構成になっている。この工夫はとても巧みだ。この恋はどこにでもある普通の恋ではなかったのだ。それを僕は最初から知っていた。知っていながら彼女を心から愛してしまったのだ。海辺のホテルでの一夜に、彼女は最後の思い出を作ったのだ。別れなければならない。彼女には僕を選ぶ選択肢はなかった。そう考えると、小寺和久脚本も松本花奈監督の演出も納得がいく。どうして初めから彼女は積極的に僕に近づいてきたのか。一人暮らしのはずの彼女がなぜ高級マンションに暮らしているのか。彼女の部屋に僕が行かないのはなぜか。前半の会話や描写にはその謎が伏線として描き込まれている。海辺のホテルでの二人のセックスを丁寧に撮っている理由もよくわかる。物語は、2017年で終わる。彼女は戻らず、僕に新たな恋は訪れない。大学時代、勝ち組と思っていた友人たちは、現実社会の中で傷つき挫折し、会社を去っていく。だが、僕だけは残る。忍耐もまた能力なのだ。カツセ・マサヒコ原作。

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