スコットランド全史・「運命の石」とナショナリズム(桜井俊彰著・集英社新書)

22年9月8日に亡くなったエリザベス女王に代わって新たな国王となったチャールズ国王の戴冠式は23年初夏に行われるという。この時に使われる椅子「キング・エドワード・チェア」に嵌めこまれているのが、「運命の石」だ。別名「スクーンの石」とも呼ばれている。その名の由来から、現在「運命の石」が置かれているスコットランド・エディンバラ城のクラウンルームへの移動まで、「運命の石」と共にスコットランドの歴史を語るのが、この本だ。歴史の本だが、読者に語りかけるように記されている。プロローグには「スコットランドの首都エディンバラ。世界遺産になっているこの美しく壮麗な歴史都市の顔ともいえるのがエディンバラ城です。その城内の宮殿二階には、スコットランドの宝器を収めたクラウンルームと呼ばれる部屋があります。(略)そんなクラウンルームに一風変わった、ある『宝』が置かれています。(略)金や銀も装飾されていない、ほぼ直方体の、なんの変哲もない、どこにでもあるようなふつうの石。これが『運命の石』と呼ばれるものです」1953年6月2日に行われたエリザベス女王の戴冠式は、ロンドンのウエストミンスター・アベイで行なわれた。女王が戴冠式の椅子に座っている写真が本書には掲載されているが、この時まで「運命の石」は椅子に嵌め込まれたままウエストミンスター・アベイに保管されていた。だが、この石は現在スコットランドにある。なぜか。その流転の歴史を語るのも、この本だ。面白いのは、第2次世界大戦後、この石が一度盗まれていることだ。しかも、盗み出す途中に割れている。現在の石は真鍮とセメントで繋がれているのだ。誰がこの石を盗み、なぜ石は割れたのか。その謎もこの本でわかる。「運命の石」は、1296年に当時のイングランド王エドワード1世によってスコットランドからロンドンに運ばれた。歴代の国王たちが、この石の嵌め込まれた椅子に座って戴冠式を行なった。だが、1996年、この石は当時のジョン・メイジャー首相によってロンドンからスコットランドへ移されたのだ。そこには戦後活性化された「スコットランドナショナリズム」が潜んでいる。エリザベス女王は、スコットランドの城で亡くなり、その遺体はロンドンへ運ばれた。チャールズ国王の戴冠式の時、「運命の石」もスコットランドからロンドンへ運ばれるはずだ。そして又、スコットランドへ戻されることになるだろう。

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